始まってしまった、もうあとは求めるだけ
広々とした丘からは、インテレディアの美しい風景が見渡せる。
墓石はそろそろ薄汚れてきただろうか。
そろそろ綺麗に磨かなければならない。

彼女の好きだった白い花を大きな花束にして墓の前に落とす。
いっそのこと、この丘も花畑にしてしまいたかった。
花に埋もれていれば、きっと彼女も寂しくはないだろうに。

腰にまとわりついていた甘えん坊の双子がこちらを見上げている。
「ねえパパ、これなあに?」
「これは君たちのおかあさんだよ、デクレ」
「ええっ、ぼくたちのおかあさんって石だったの?」
「…この下に、おかあさんが眠ってるんだよ、クレッセ」

そう言ってやると、双子は途端に泣き出しそうな顔をした。
…この表情は彼女によく似ている。
かつて、腕の中の彼女もこんな顔で泣いていた。

「そんなのくるしいよ!だしてあげなきゃ!」
「そうだよ!いきができなくなっちゃうよ!」

ユールは双子の頭を優しく撫ぜた。
彼らは優しい。つくづく母親似だと思う。
母親似で良かった。自分などに似てしまってはいけないから。

だから鮮明に残る彼女の記憶をゆっくりと辿って、
彼女ならきっとこう言うだろう台詞を選んで、
ユールはゆっくりと双子に語って聞かせた。

「そうだね、君たちがそんな顔をしていたら、おかあさんも苦しい」

目を伏せて浮かぶのは彼女の笑顔ばかりだった。
つないだ暖かな手のひら。
まだ学園にいた頃の、眩しい日々。

「だから、どんな辛いことがあっても、
いずれは笑って乗り越えることのできる強さを持つんだよ。
おかあさんが、安心して君たちを見守ることができるように」



「…ねえ、ユール?」
「なんだい、ピル」

握り締めた彼女の指先はやはり冷たいままだった。
今はこんなに苦しくてたまらないこの時間も、
いずれは色褪せて思い出として語れる日が来るのだろうか。

そんなのはごめんだ。
この身体も命もなにもかもいらないから、
どんなに短くてもいい、彼女と幸せに生きられる日々が欲しかった。

「あたし、きっと幸せだったんだと思うの」

ピルはやはり微笑んでいた。
「ユールのせいで記憶を失くしてしまったんだとしても、
それであたしっていう存在が、ユールの中にほんのちょっとでも、
残ってくれたんだとしたら…あたし、嬉しくてたまらないと思うの」
「…そんなことしなくても、
もうずっとずっと前から、僕の中は君の中でいっぱいだよ」

ふざけないの、とピルはくすくす笑った。
そうは言っても本気だった。
ただ、昔も今も、ユールはどこまでも利己的すぎただけで。

「ねえユール、あたし、生まれ変わったら、
やっぱりまたユールに会いたいなあ」
「縁起でもないことは言っちゃいけないよ、ピル」
「だって本当のことだもの!
またユールと出会って、嬉しいことも悲しいことも、全部ふたりで分け合って、
それでまた、あたしはあなたのことが好きになるのよ」

だからそれまで、生きてあたしのことを待っていてね。
微笑むピルに抗うことなんて、できるわけがなかった。
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お題提供:群青三メートル手前