始まってしまった、もうあとは求めるだけ |
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広々とした丘からは、インテレディアの美しい風景が見渡せる。 墓石はそろそろ薄汚れてきただろうか。 そろそろ綺麗に磨かなければならない。 彼女の好きだった白い花を大きな花束にして墓の前に落とす。 いっそのこと、この丘も花畑にしてしまいたかった。 花に埋もれていれば、きっと彼女も寂しくはないだろうに。 腰にまとわりついていた甘えん坊の双子がこちらを見上げている。 「ねえパパ、これなあに?」 「これは君たちのおかあさんだよ、デクレ」 「ええっ、ぼくたちのおかあさんって石だったの?」 「…この下に、おかあさんが眠ってるんだよ、クレッセ」 そう言ってやると、双子は途端に泣き出しそうな顔をした。 …この表情は彼女によく似ている。 かつて、腕の中の彼女もこんな顔で泣いていた。 「そんなのくるしいよ!だしてあげなきゃ!」 「そうだよ!いきができなくなっちゃうよ!」 ユールは双子の頭を優しく撫ぜた。 彼らは優しい。つくづく母親似だと思う。 母親似で良かった。自分などに似てしまってはいけないから。 だから鮮明に残る彼女の記憶をゆっくりと辿って、 彼女ならきっとこう言うだろう台詞を選んで、 ユールはゆっくりと双子に語って聞かせた。 「そうだね、君たちがそんな顔をしていたら、おかあさんも苦しい」 目を伏せて浮かぶのは彼女の笑顔ばかりだった。 つないだ暖かな手のひら。 まだ学園にいた頃の、眩しい日々。 「だから、どんな辛いことがあっても、 いずれは笑って乗り越えることのできる強さを持つんだよ。 おかあさんが、安心して君たちを見守ることができるように」 ◆ 「…ねえ、ユール?」 「なんだい、ピル」 握り締めた彼女の指先はやはり冷たいままだった。 今はこんなに苦しくてたまらないこの時間も、 いずれは色褪せて思い出として語れる日が来るのだろうか。 そんなのはごめんだ。 この身体も命もなにもかもいらないから、 どんなに短くてもいい、彼女と幸せに生きられる日々が欲しかった。 「あたし、きっと幸せだったんだと思うの」 ピルはやはり微笑んでいた。 「ユールのせいで記憶を失くしてしまったんだとしても、 それであたしっていう存在が、ユールの中にほんのちょっとでも、 残ってくれたんだとしたら…あたし、嬉しくてたまらないと思うの」 「…そんなことしなくても、 もうずっとずっと前から、僕の中は君の中でいっぱいだよ」 ふざけないの、とピルはくすくす笑った。 そうは言っても本気だった。 ただ、昔も今も、ユールはどこまでも利己的すぎただけで。 「ねえユール、あたし、生まれ変わったら、 やっぱりまたユールに会いたいなあ」 「縁起でもないことは言っちゃいけないよ、ピル」 「だって本当のことだもの! またユールと出会って、嬉しいことも悲しいことも、全部ふたりで分け合って、 それでまた、あたしはあなたのことが好きになるのよ」 だからそれまで、生きてあたしのことを待っていてね。 微笑むピルに抗うことなんて、できるわけがなかった。 |
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お題提供:群青三メートル手前 |