今度はきみが捕まえてよ
「ねえユール、私にも占いをしてよ」

唐突にピルがそんなことを言い出したものだから、
思わずユールは息を呑んで彼女を見た。
以前よりも硬い声音で喋る彼女(多分それは気のせいだ、
僕が他の人間と同列になったってだけ。以前の彼女は僕にやさしすぎた)は、
上目遣いにユールを見上げた。
…そんな目で見られるとどうしていいのかわからなくなる。

「ソラがね、ユールは占いが得意だって教えてくれたの。
どうして私には教えてくれなかったの?
私もユールに何か占ってもらいたいなあ」
「……」

彼女にユールの特技を教えなかったのは、ひとえにユールが怖いからだ。
いつだってピルはユールの占いを絶賛してくれた。
それはきっと単純にユールの占いに惚れ込んでいただけじゃなくて、
ユール自身に対するピルの想いにも関係があったのだろうから。
占いを見せたときの彼女の反応によって、
変わってしまった自分たちの関係を改めて思い知らされることが怖かった。

ギルビスやソラは、そうして身近で占いを見ていたピルの記憶を、
同じように占いをすることで改善できるのではないかと考えているようだった。
…だけど、最近思う。

ピルにとって、記憶を取り戻すことは最善なのか。
辛い思いをするだけなんじゃないか。
彼女はまた自分を責めてしまうんじゃないか…なんて。

勿論ユールにとっては昔、一緒に笑いあえた記憶を、
再びピルと共有したいとは思うのだけれど、
けれど今ここにピルがいて、たとえ彼女がもう自分を好きではなくても、
こうして笑っていてくれるのなら…それで、いいんじゃないだろうか。
ソラに打ち明ければ「軟弱だ!」とわめくのは目に見えている。
ギルビスだってきっといい顔はしないだろう。
フェイやその父親も、きっとユールの気持ちを尊重してはくれるだろうけど、
ユールに気を遣って負い目を感じてしまうかもしれない。

怖い。
もしも占いで、嫌な結果が出たら?
もう、僕は大切な人を失くしたくなんてないのに。

「…ユール?」
「………うん?
そうだね、何を占って欲しい?」

けど、そんな焦がれるような表情をピルに向けてはいけない。
彼女にとって自分達はまだ知り合って間もなくて、
互いのことなんてほとんど知らない間柄のはずなのだから。

「そうだなあ、じゃあ、相性占いなんてどう?」
無邪気に笑うピル。
「私とユールの!」

そこに深い意味がなかったのだとしても。
どれだけこの少女は、ユールを泣かせれば気が済むのだろう。
それともこれが罰だとでも言うのだろうか。
心の裏側で悲鳴を上げる。それに耐え切るのが、
彼女を守りきれなかったユールへの罰なのかと。

「そんなの、しなくてもすぐにわかるよ」
それでもカードを切りながら、ユールは笑う。
僕らはいつだって笑っている。
彼女は失った記憶を、僕は自身への憤りを隠して。

わかってる。
きっと僕らの相性は最悪だ。
でなけりゃこんなに悲しい結末にはならなかったはずだから。

「どうして?」
物語が一旦終幕を迎えたことも知らないピルは問うてくる。
ユールは笑う。

「占いなんかに頼らなくても、
僕らが仲良くなれるかは、僕ら次第だからだよ」
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