優しく触れてくる指に 勘違いしそうになる |
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「ナエの髪は綺麗だね」 そう言うロビ様に、私は微笑むしかできなかった。 彼がそう言うたびに私はこんなにも虚しい気持ちになる。 どうして私が好きになったのは、トレイズじゃないんだろう。 同じ時に出会ったんだ、あの人を好きになる可能性だってあったはず。 むしろ彼らと出会った当時、ロビ様はとても内気で、 私と話すのはもっぱらトレイズばかりだったというのに。 トレイズを好きになればよかった、なんて。 そんな本音を漏らしたらきっとロビ様は怒るだろう。 いつものように、笑顔のままで、私を温く温く愛すのだ。 決してその腕を放してはもらえないのだろう。 どうして、ロビ様は世界王のご子息なんだろう。 彼はシェーロラスディ陛下を酷く嫌っていらして、 彼の跡など継ぎたくないといつも言うのだけど、 私には分かっている。彼は絶対に王になるのだと。 世界の頂点に立つお方。 そんな方と、一介の家出娘、それもエルフが、釣り合うはずがない。 私達が両想いだろうとなんだろうと、 いずれ私達は引き離されるに違いない。 そんなの、いや。 「ロビ様」 だから私は彼の名を呼ぶ。 今だけは、彼の全てになろうとする。 いずれ失う時が来るのなら、せめてそのときまでは、 彼には私だけを見ていて欲しいのに。 「ロビ様」 「…なんだい、ナエ?」 僅か掠れたロビ様の声が耳元で響いている。 ああ、永遠にこんな時が続けばいいのに。 死ぬまで、ずっとずっと、それなら私だって喜んで不老不死になる術だって探すのに。 「お慕い、しております」 ロビ様のモスグリーンの瞳がきらと瞬いた。 彼はわかっているのだろうか。 私達は永遠じゃないって。 分かっていてなお、私に優しくするというのなら。 なんて残酷なお方。 ロビ様はふと瞳を細めた。 私の手を取って、指を絡めてくる。 優しく私の身体を壁に縫い付けて、額を重ねて、 私の視界はロビ様が一面に広がった。 「うん、僕も好きだよ、ナエ」 きみだけが、すきだよ。 第九の巫子が世界を壊すというのなら、 そう告げるこの時この瞬間に、世界を滅ぼしてくれればいいのに。 |
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