30.そして物語ははじまりの舞台へ
転移は一瞬で呪文をかけた者を望む地へと導いてくれる。
けれど今度はなんだか様子が変だとラファは目を瞬いた。
目の前には真っ暗闇。勿論そこにはラトメや、シエルテミナの屋敷の景色はどこにもない。
方角も自分の立っている場所の高さもわからない。
ただただ黒く塗りつぶされたほんとうの闇の中で、ラファはひとり佇んでいた。

…一人、そう思った途端、急に心細くなった。
ゼルシャの森にだって一人で飛ばされたというのに、闇は人を惑わせる。
ラファはまさか転移装置の誤作動でもあったのか、
こんな異空間にひとり取り残されたことに気がついてはっと息を呑んだ。
助けどころか、トレイズのようにナイフを向けてくる人間だって、
それ以前に生命の息吹が全く感じられないその景色にラファは立ち尽くした。

「お、おい…」
自分にこんな震える声を出す機会がやってこようとは思っても見なかった。
「ルナ!レイン!」
親友の名を呼ぶ。普段なら笑顔で振り返るはずの彼らの姿はない。
ラファは戸惑って小脇に抱えていた"黒い本"を胸に抱き寄せた。
そうしていると、無条件に安心できそうな気がしたのだ。

「エル…」
「――誰か、わたしのこと、呼んだ?」

心臓が胸を突き破って飛び出すかと思った。
瑠璃の瞳を見開けるだけ見開いて咄嗟に振り返ると、
そこにいたのは。

「え、エル…?」

エルミリカ、ではなかった。
まず目に入ったのは、この闇の中で眩く光る一対の白くて大きな羽だった。
それは黒に侵されることなく、暖かな光をほのかに放っていて、
ラファは思わずちょっぴり目を細めた。
両側に大きく広がった羽の先っぽから本体を辿ると、
翼の持ち主がラファよりもいくつか年上の、
少女と呼ぶには少しばかり大人びた、けれど童顔の女性がぽつんと立っていた。
ラファと同じ年頃にも見えるが、それにしては落ち着いた出で立ち。
エルミリカのような絶世の美少女などではない、平凡な女だ。
けれど注目すべきはそこではなく、
どこかで見た使用人のような衣装と、大きめの丸い瑠璃色の瞳だった。

そう、あの使用人服。
いつか見た、レーチスを切なげに呼んだ、血塗れのエルミリカが纏っていたものだ。

けれど女性の髪は銀ではなく茶色だった。
それに髪型もエルミリカとは違って短く切り揃えられている。
どちらかというと中性的な顔立ちの女性は、ラファを見てゆっくりと首をかしげた。

「今になって、同族の人…というか、誰かに会うなんて思ってもみなかった」
感嘆の溜息のようなものを漏らしながら女性はひとりごちた。
彼女はラファを頭の先から爪先まで不躾に眺めて、
相変わらず胸に抱いた"黒い本"に留められた。
数回目を瞬いて、彼女は大きな翼を広げながらラファに一歩近づく。
動けなかった。というより、むしろラファは自分から彼女に近づいたほうがいいような、
そんな不可解な気持ちに囚われた。

「どうしてあなたがそれを持ってるの?
ねえ、わたし、それは廃棄するようお願いしたはずなんだけど」
「あ、あ、あんたは…?」

どうにか抱えていた疑問を搾り出す。
すると少女は力の抜けたラファの腕から本を取り出してくすりと微笑んだ。
…エルミリカそっくりの、優しい微笑だった。
「わたしの名前は、ウラニア」
「ウラニア?」
けれどするりと流れ出た名前は期待していたものではない。
「うーん…なんて言ったらいいのかな、まあ…
正確にはウラニアの"残り滓"っていうか…本当の私は、
とっくの昔に死んじゃってるんだもの」
「どういうことだよ」
「あのね、ここは『記憶の掃き溜め』なの」

思わず眉を寄せて、ウラニアと名乗った女性を見ると、
彼女は丁寧に黒い本のページを辿っているところだった。
「あなたがここに来たってことは、あなたも予知夢の君なんでしょう?
ひょっとすると過去夢の君かしら」
「なんで…」
「ここはね、歴代の過去夢や予知夢の君の思い出が眠ってるの。
過去夢の君や予知夢の君の能力とともに、
彼らの記憶も、…うーん、彼らの見てきた夢の内容、とでも言えばいいかしら。
それも一緒に受け継がれるのよ。
わたしもそう、かつて私が予知夢の君だった頃、
そして、エルミリカ様が予知夢の君だった頃の記憶がこうして形を成して、
今のわたしを作ってるの」
だから、記憶の掃き溜め。
つぶやいて苦笑したウラニアが懐かしそうに本の文字を辿った。
そんな彼女をまじまじと見る。
先ほど読んだばかりの"黒い本"の内容が頭の中をよぎる。
…もしかして。

「…あんたが、エルミリカ・ノルッセルと入れ替わった女王の侍女?」
「そう。歴史に名を残した、偽者のほうのエルミリカ」

名前をなくした、レーチスが愛した、ひとりの女性。

ラファはそうしてまじまじとウラニアを見た。
以前ちらりと見たレーチスは…勿論、ほとんど一瞬だったし、
顔なんてまともに見ている状況でもなかったからあまり覚えていないが…
エルミリカの血族だと言われてもすんなり納得できるくらいには、
男の自分から見ても格好よかった…気がする。
食えない態度というか、飄々とした奴ではあったが、
鼻筋はすっと通って、色白で、瑠璃の瞳はぱっちりとしていて、
立ち姿だって凛としていた。
言ってはなんだが、目の前の少女は…ラファの知るエルミリカと比べると、
どこにでもいる普通の女の子だし、レーチスとは、
見目はあまり、釣り合わない。
そこまで考えて、ラファはウラニアに申し訳なく思った。
自分はそんな大それた千美眼なんて持ち合わせていないというのに、
いくらなんでも不躾すぎる。

ウラニアはラファの考えなんて全く考えてもみないらしく、
穏やかに笑ってラファを見返していた。
その笑顔だけはエルミリカと一緒だ。
見る者を無条件で安心させるような、知的で優しい表情だ。

「で、あなたの名前も教えてくれない?
この本を持ってるってことはわたしよりも未来の人よね。
ミフィリ様の血筋かしら、それとも…ああ、レーチス様、かしら」

レーチスの名前を呼ぶとき、ウラニアの瞳の奥がゆうらりと揺れた。
彼女にとってそれを言うのはひどく勇気が要ったに違いない。
だって彼女はレーチスが好きで、そんな彼が、
他の女と家系を伸ばしているなんてあまり吉報ではない。

ラファは肩をすくめた。
「それが分からないんだ。ついこの間まで俺、
自分がノルッセルだってことも知らなかったし…
大体、俺のこの目は隔世遺伝らしいから、
父さんも母さんも銀髪でも瑠璃色の目でもなかったんだ。
当の、俺が目を受け継いだって思われる爺さんも、
どこの誰かも分からないっていうか…まあ、ワケ有りらしいし」
「え?」
するとウラニアが瑠璃色の瞳を見開いてラファを見た。
もう一度ラファを上から下までじろじろと眺めると、
ちょっと泣き出しそうな不安げな表情に染めて、ウラニアはラファに詰め寄った。
「ねえ、…ねえ、あなたの名前、なんていうの?」
「ラファ、だけど」

ああ、神様、エルミリカ様。
吐息まじりにウラニアは確かにそうつぶやいた。
見てはいけないものを見てしまったようにばつの悪い顔をしながらも、
今やウラニアの瞳は涙に濡れていた。
突然ウラニアが泣き出した訳なんてラファには到底分かりはしない。
ラファにできるのは、ぼろぼろ大粒の雫を落とすウラニアに慌てふためくことだけだった。

「お、おい…!」
「ああ、運命って、運命ってほんとにあるんだわ…!
そう、ラファ、あなたは、あなたはラファっていうのね…」

ウラニアはラファの両手を取ってきゅっと握った。
宝物に触れるような優しい手つきだった。
ラファは困惑した。
「一体なんなんだ?」
「ラファ君」
いとおしむような口調だった。
熱っぽくラファを見るウラニアに、ラファは背中のあたりがこそばゆくなった。
「あなたのその質問に対する答えを、わたしにはあげられない」
「どういう、意味だよ」
「そのままの意味。今、わたしがそれを言ってしまったところで、
あなたが受け入れてくれるわけがないもの」

何を言いたいのかまったく分からず、ラファは瞠目した。
ウラニアは目尻を赤くしたままにこりと笑って、時折しゃくりあげながら言った。
「よろしくね、ラファ君。あなたに会えて、わ、わたし、とってもうれしい」



それからウラニアが落ち着くまで途方に暮れながら待ち、
ようやくラファは周囲の闇を見回しながら尋ねることが出来た。
「それで、ここからはどうやったら出られるんだ?」
「わからない」
途端に愕然としたラファを慮ってか、ウラニアは慌てて付け足した。
「でもね、ここはあなたにとっては多分、夢のようなところだと思うの。
だから来たるときが来れば、自然と目が覚めてあなたの世界に戻れるわ」
「夢、なのか?」
夢という単語にはあまりいい思い出がないな、ラファは顔をしかめた。
その言葉は、嫌でもあの狂ったクレイリスを思い出してしまう。
そう、自分は、彼女の夢の中のいち登場人物なのだという、不愉快な仮定を。

ウラニアはくすりと笑った。
「だってそうでしょう?ここは『記憶の掃き溜め』。
過去夢の君や、予知夢の君の頭の中にしか存在しないはずの世界。
そんなところで私とあなたが話してるなんて不可解なこと、夢とでも言わなきゃ説明がつかない」
「アンタはそれでいいのか?自分が夢の中の登場人物だって認めることになるんだろ?」
ラファが不機嫌に言い放つと、とうとう彼女は噴出した。
「ねえ、想像してみたことはある?
自分の生きる世界が、誰かの見る夢の中に過ぎなくて、
自分はその夢の中の登場人物にしか過ぎないの」
「そんなわけない!だってこうして俺は生きていて…」
「そう、生きている!」
神妙にウラニアは言った。楽しげに。嬉しげに。
「ここがあなたの夢の中だとして、私がこうして生きていることに変わりない。でしょう?
結局何も変わらないの。私には思い出があり、この記憶の掃き溜めで、生きている」

ラファは目を瞬いた。あんまりにもこともなげに彼女がそんなことを言うので、
しばし、自分は何故「ここは私の夢の中」などと言い放ったクレイリスに、
あんなにも怒りを覚えたのかと疑問に思ってしまった。
そんなラファの様子を知ってか知らずか、ウラニアは自身の羽を弄っている。
「信じればなんでも現実になるって、レーチス様はいつだったか仰っていたわ。
だから私はこんな曖昧な世界で生きていられるの。
ここがどこだろうと、私はこの場所で生きているのだと、そう信じているから」
「レーチス様、って」

ラファが話を振ると、ウラニアは至極嬉しそうに笑った。
頬をちょっぴりピンク色に染めて、その時になって、
案外ウラニアが可愛いということにラファは気がついた。
「その本を読んだのなら知ってるでしょう?私の一番大好きな人よ」
「……」
ラファは沈黙した。このあどけない少女にも見える女性が、
あの血塗れの惨劇にいたエルミリカ・ノルッセルとは妙に結びつかない。
けれど、だ。
彼女ならば答えをくれるのではないだろうか。
ラファは出し抜けに感じた。
クレイリスが自分を誰と重ねているのか。
エルミリカが、自分を誰と重ねていたのか。
彼女は聖女クレイリスの親友で、未来のエルなのだから。

「…お前がエルと同一人物なら、聖女クレイリスも…知ってるんだよな」
ウラニアは笑みを引っ込めた。ラファを見る。
その瑠璃色の瞳は、悲しげな色を纏っていたように、見えた。
「……ええ、知ってる。彼女も、大切な人」
それなのに、申し訳なさそうな思いでいっぱいに見えるウラニアは、
クレイリスに何か負い目でも感じているかのようだった。
ラファはゆっくりと、問うた。
「教えてくれないか。…クレイリスが、レーチスが、どんな奴だったのか」

ウラニアはしばらく黙りこくっていた。
その間、まるで闇がより黒く深くなっていくような気がして、
ラファは胸のうちが不安に苛まれていったが、
表面上はただウラニアの言葉を待つかのように表情を変えず立ち尽くしていた。

やがて、ウラニアが重い口を開いた。
「…なにから話していいのか…あなたに、こんなことを話していいのか、
わたしには分からないけど」
ラファよりも一回り小さな右手を差し出してくる。手を繋げという合図らしかった。
左手で彼女の手を握り締めると、ウラニアは困ったように微笑んだ。
「いいえ、ノルッセルの一員なら、ラファ君なら、知る権利があるのでしょうね。
幸いここは記憶の掃き溜め。あの二人に関する記憶はたくさんあるわ。
…見せてあげましょう。どうして、ノルッセルが滅亡したのか。
どうして、エルミリカ・ノルッセルは崖から落ちたのか」

ラファが弾かれたように顔を上げる。
彼女は悲しげに微笑んだままだった。
「その中に、あなたの待っている答えがあるから」

ウラニアがそう言った直後、二人の姿は光の雫となって消えた。



瞬きをしたとき、ラファはいつの間にか一人になっていた。
慌ててあたりを見回すと、どこからともなくウラニアの声が響いてくる。
『ラファ君、わたしはあなたの中にいるわ。
わたしはあくまで「掃き溜め」の記憶のひとつに過ぎないから、
他の記憶をあなたを通して覗き見することしかできないの。
さあ、ここはロゼリーの王宮内よ。その廊下を真っ直ぐ進んで。案内するわ』

ウラニアの言ったとおりらしかった。
広い通路はぴかぴかに磨き上げられ、それぞれの柱には細かな彫刻が施されていた。
そばの窓から外を見ると、ここはどうやら三階くらいの高さにあるらしい。
下を見下ろすと広々とした庭の奥に、建物を取り囲むように高い石の城壁が見える。
ロゼリーの首都は山の中にあったという史実どおり、遠くの景色には山並みが連なっている。

廊下を前に突っ切っていくと、ウラニアと同じ服装をした、
メイドらしき女性が、正面の小柄な男性に賢明に話を振っていた。
慌てて物陰を探そうとすると、頭の中でウラニアがくすくすと笑う。
『大丈夫、ここは記憶の中よ。あなたの姿は誰にも見えないわ』
「でも…」
以前、ミフィリやエルミリカに過去の世界で話しかけられたことを思い出す。
それをどう説明するべきか悩んでいると、メイドの女性が興奮気味に声を張り上げた。
「レーチス様ぁっ、ねえ、今夜、いいでしょう?」
「ウーン…どうしようかな」

レーチス?思考を中断して立ち位置を横にずれると、女性の奥に隠れていた男性の姿が見えた。
そして、見覚えのある立ち姿にあっと声を上げる。

端整な顔立ちをにこやかに緩めた少年は、ゼルシャで見たときよりもいくらか幼い。
後ろで結んだ銀髪は髪紐を解いても首くらいまでの長さで、
黒い神官服はラファの知るファナティライストのものに酷似していた。
彼はズボンのポケットに両手を入れてゆったりと窓際の壁に片方の肩をもたれ、
シニカルな微笑みで眼前のメイドを魅了していた。

「レーチス・ノルッセル?」
ラファが思わず口走ると、優しい口調でウラニアが応えた。
『彼が17歳のときよ。世界創設者の原型である蹄連合を、
当時のロゼリー女帝アラベスク様が城内に受け入れた頃。
…ああ、来たわ。レーチス様の奥を見て、ラファ君』
奥?反芻してからもう少し位置をずれると、丁度奥の曲がり角から、
一人のメイドがこちらに方向転換してきたところだった。
しかし彼女の顔は見えなかった。かろうじて洗濯物を入れた籠の下から、
メイドのスカートがのぞいていることで性別は知れたが、
その上半身はうず高く積まれたシーツの山にすっかり隠れていた。
彼女はよろよろと危なっかしい足取りで歩いてきて、
そのままレーチスの背中に突っ込もうとしている。
「おい…」
見かねたラファが声をかけようとするが聴こえないことに気がついて、
その直後、洗濯物はレーチスの背中に激突した。

「わ、ごめんなさい」
背中に衝撃を感じたレーチスは、振り向くなり視界一杯に広がる白いシーツに目を丸くした。
少女の声はその奥からしたらしい。
ラファは二人の姿が見やすいように、更に立ち位置を変えた。
困った表情のウラニアが洗濯籠に両手を塞がれて立ち尽くしている。
「ちょっとぉ、ウラニア!」
レーチスに逢瀬の相談をしていたメイドが憤慨して声を上げた。
「王家の方になんて粗相をしているの?皇女付だからっていい気にならないでよ!」
「お、王家!?」
慌てて足をもつれさせながらウラニアは横向きになる。
そしてレーチスの顔を見るなりさっと青ざめて、恐怖にまみれた表情のまま洗濯籠を取り落とした。
真白いシーツが廊下に数枚こぼれた。
そんなことにも気を留めず、ウラニアは何度も平伏する。
「も、申し訳ございません!とんだご無礼を!」
「ウラニア、そんなんで謝ってるつもりぃ?ねえレーチス様、
こんな奴ほっといて行きましょ」
「やめろよ」

レーチス・ノルッセルは無表情で絡み付いてきたメイドの腕をほどく。
顔を強張らせたメイドには一瞥もせず、その場にしゃがみこむと、
今度はゆっくりと優しげに微笑んでウラニアの肩に手を置いた。
「ほら、顔を上げてよ。別にちょっとぶつかったくらいで怒らないって」
「で、ですが…」
なおも頭を下げようとするウラニアの額に手を当ててそれを阻止すると、
レーチスは悪戯っぽく笑って見せた。
「君、あの横暴女、えーと、エルミリカと一緒にいたメイドだろ?
可愛いなって思ってたんだ、名前なんていうの?」
「え、…え?」

ウラニアは困り果ててレーチスと、その後ろで鬼の形相をするメイドとを交互に見た。
ラファはその場に立ち尽くしレーチスを見つめた。…なんて軟派男だ!
頭の中のウラニアはそれすらもくすくす笑い飛ばしてみせる。
『この頃のレーチス様は宮中では有名だったのよ。
誰にでも女の子に声をかけるんだって、、
実際に手を出された女の子も結構いたって話。
そこにいる…わたしの同僚もそうだったのね。
ただ、レーチス様はとっても素敵な方だったから、女の子たちもむしろ歓迎というか…』
その頃のわたしは噂話に疎くて、全く知らなかったけど。
ウラニアが楽しそうに言うのを、ラファは冷や汗をたらしながら聞いていた。
普通好きな相手のこんな女性遍歴を見るのは辛かろうに、
ラファ越しにこの光景を見ているだろうウラニアは全く気にする様子はなかった。
しかし、ふと彼女は溜息をつく。

『これが、わたしとレーチス様の出逢い。
この後、わたしたちはすぐに仲良くなっていったわ。
まるで、わたしたち、出会うべくして巡りあったんじゃないかって、
そう思ってしまうくらいに』

ラファの視界では、レーチスがウラニアを立たせ、一緒に洗濯物を運んでやり、
それを拳を握り締めて見送る怒れるメイドがいた。
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